1. なぜ秋口に関節痛が増えるのか?季節の変わり目の体のSOS
「朝晩の冷え込みで体が重いなぁ」「夏は平気だったのに、膝がなんだか痛むようになった…」。
そんなふうに感じている方が、秋口になると本当に増えてきます。この時期は、日中と朝晩の気温差がぐっと大きくなります。体温調整を担う自律神経はフル稼働を強いられ、やがて疲れきってしまいます。その結果、血流や代謝が乱れ、筋肉や関節を支える働きが弱まってしまうのです。
特に関節は、軟骨や靭帯、周囲の筋肉が柔軟に動いてこそスムーズに働きます。しかし血流が滞ると栄養や酸素が届きにくくなり、筋の緊張やこわばりが起きやすくなるため、夏の疲れが残っている人やもともと関節に不安を抱える人ほど、痛みを感じる傾向が強まります。
2. 冷えが引き起こす、血流の悪化と関節への影響
「冷え」と聞くと冬を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は残暑の季節も油断は禁物です。冷えは気づかないうちに血管をきゅっと縮め、筋肉を硬くしてしまいます。その結果、関節まわりの柔軟性が失われ、動かすたびに違和感や痛みが出やすくなるのです。
さらに、関節を滑らかに動かす潤滑液(滑液)も、冷えによって粘度が高まり、まるで冷え固まった油のように働きが鈍ってしまいます。こうした小さな変化が少しずつ積み重なり、「朝起きたら膝がこわばる」「以前に痛めた古傷がズキズキする」といった、つらい症状として現れます。
3. 残暑ならではの落とし穴 ― エアコンと冷たい飲食に潜むワナ
秋口の冷えは、外気温だけではなく、私たちの日常の習慣にも潜んでいます。心当たりがないか、少しチェックしてみましょう。
- エアコンの使いすぎ: 蒸し暑さに耐えきれず、ついエアコンを強めに設定していませんか?冷気は下にたまりやすいため、特に足元をじわじわと冷やしてしまいます。
- 冷たい飲み物や食べ物: アイスコーヒーや冷たい麺類、美味しいものです。でも、これらは内臓を冷やし、全身の血流を悪くする原因になることがあります。
- シャワーだけの入浴: 暑いからといって、湯船につからずにシャワーだけで済ませていませんか?体の芯まで温まる機会を失い、夏の疲れが取れにくくなってしまいます。
つまり「季節は秋でも体はまだ夏モード」。そのギャップこそが、秋口の関節痛を招く隠れた原因となります。
4. 整形外科でできること:検査と治療の選択肢
もし関節の痛みが長引いたり、腫れや熱感がある場合は、どうか我慢せず、一度整形外科で診察を受けてみましょう。
診察では、問診や触診のほか、必要に応じてX線やMRIで関節の状態を詳しく調べます。そのうえで、お一人おひとりに合わせた治療法をご提案します。
- 物理療法:電気治療で血流を改善し、筋肉の緊張を和らげます。
- 運動療法:理学療法士によるリハビリや筋力トレーニングで、関節を支える力を強化します。
- 薬物療法:消炎鎮痛薬や湿布で炎症や痛みを抑えます。
「冷えかな?」と自己判断していても、実は関節リウマチや変形性関節症など、別の病気が隠れている場合もゼロではありません。早めに専門医に相談することが、痛みを解決する大切な第一歩になります。
5. 日常生活での予防法:体を温めるちょっとした工夫
整形外科での治療とあわせて、普段の生活習慣を見直すことで、つらい症状の悪化を防げます。
- 湯船に浸かる:38〜40℃のお湯に15分。体の芯まで温まります。
- 温かい飲み物を選ぶ:朝は白湯、日中はお茶やスープを意識して摂ってみましょう。
- 体を動かす:軽いウォーキングやストレッチで血流と柔軟性を保ちましょう。
- 服装で工夫:就寝時はレッグウォーマーやひざ掛けを。外出時も羽織れるカーディガンを持ち歩くと安心です。
小さな積み重ねでも、続けることで冷えにくい体を育てていけます。
6. 体質改善をサポートする漢方の視点
東洋医学では、関節痛を「冷え」だけでなく、「水分代謝の乱れ」や「血流の滞り」とも関連づけます。体質に応じた漢方を取り入れることで、根本的な改善を目指すことができるんですよ。
- 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう):冷えを伴う関節痛に用いられる代表的な処方です。
- 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう):むくみを伴う、水分代謝が悪い方に。
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう):手足の冷えが強く、血行不良が背景にある場合に。
これらはあくまで一例です。実際には体質や症状に合わせて医師が選びます。「冷え性だから仕方ない」と諦める前に、体質改善の選択肢としてご相談ください。
7. まとめ:冷えを味方にせず、健やかな秋を迎えるために
秋口に増える関節痛は、決して年齢のせいだけではありません。残暑の生活習慣や冷えが、体の不調を招いていることも少なくありません。
大切なのは、自分の体の小さなサインを見逃さず、早めに対処すること。生活習慣を少し整え、必要に応じて私たち整形外科や漢方に相談すれば、秋を軽やかに過ごせるはずです。
どうぞ「冷え」を味方にせず、軽やかな体で健やかな秋をお迎えください。
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