第1章:整形外科で漢方?と思う方へ

整形外科で漢方を使うと聞くと、「え?それって内科の分野じゃないの?」と思う方もいるでしょう。確かに、漢方というと風邪や胃腸の薬という印象が強いと思います。しかし整形外科の症状にも漢方がとても相性のいいケースがあるのです。

たとえば、

  • 肩こりや腰痛が長引いてなかなか良くならない
  • 痛み止めを飲むと胃が荒れてしまう
  • 体が冷えやすく、だるさが抜けない

こういった方に、体の内側から整える漢方がうまく働くことがあります。「痛み止めを飲む→効かない→また別の薬」と繰り返すより、“治りやすい体の状態をつくる”──それが漢方が得意とするところです。

第2章:痛みやこりに対する“漢方的アプローチ”

現代医学では、炎症や痛みを“直接おさえる”のが基本的な考え方です。

一方、漢方では「なぜその炎症や痛みが起きているのか」という“背景”に目を向けます。

例えば、

  • 冷えで血の巡りが悪くなっている
  • ストレスや疲れで気の流れが滞っている
  • 天候がよくないと、痛み・不調を感じる

こういった状態を整えることで、結果的に痛みやこりを和らげていく。これが漢方の考え方です。つまり漢方は痛みが出ないように体調やバランスを整えてくれる薬なのです。整形外科の治療と合わせて使うことで、治りづらい症状が少しずつ改善していくことが期待できます。

第3章:整形外科でよく使われる漢方薬

実際に整形外科でよく処方される代表的な漢方を、いくつかご紹介します。(※体質や症状に合わせて選ぶため、あくまで一例です)

漢方名 主な特徴・使われる場面
葛根湯(かっこんとう) 肩や首のこり、初期の痛み、冷えなどに。風邪のイメージが強いですが、整形外科でも意外とよく使われます。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 冷えやむくみ、血の巡りの悪さがあるときに。特に女性の体調不良に使われることが多いです。
疎経活血湯(そけいかっけつとう) 関節痛や神経痛に。血の巡りの悪さを整えることで筋のこりや緊張を緩和し、腰痛などに使われることが多いです。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) 加齢に伴う身体の衰えが背景にある、腰痛や足の痺れに。滋養強壮の効果もあります。

整形外科では、レントゲンやMRIなどで「構造的な異常」を確認します。一方で、漢方は「体の巡り」や「エネルギーの状態」を整えることで、痛みや不調を内側から支えます。この“内と外、両方からのアプローチ”が、併用治療の大きな強みです。

第4章:併用のメリットと注意点

4-1 治療の幅が広がる

西洋薬(痛み止めや湿布)に漢方を加えることで、「痛み+体質」の両面から治療できます。「冷えると痛い」「天候が悪いと悪化する」──そんな波のある症状にも、柔軟に対応しやすくなります

4-2 体にやさしい治療の選択肢

漢方薬は、一般的な鎮痛薬に比べて身体への負担が少ないことが多いです。「長く薬を飲み続けるのが不安」という方にも、体にやさしい選択肢として取り入れやすいと思います。

4-3 注意したい点

もちろん、漢方にも合う・合わないがあります。人によっては、胃のもたれや下痢などの副作用が出ることも。市販の漢方薬を自己判断で重ねて飲むのは避けてください。整形外科では、症状や体質を踏まえた上で医師が処方するので、安心して相談してもらえればと思います。

第5章:まとめ|体の回復力を引き出す漢方治療という選択

整形外科の治療は、決して「薬だけ」で完結するものではありません。

画像検査で原因を調べ、西洋医学で炎症を抑え、漢方で体のバランスを整える、そして予防のためリハビリと運動療法──この“合わせ技”が、とても力を発揮します。

痛み止めを減らしたい方、慢性的な痛みや冷えがある方、「なんとなく体が整わない」と感じる方には、漢方という選択肢もあります。リハビリをして体のリズムを取り戻すように回復していく。それが、整形外科での“併用治療”という考え方です。もし気になる症状が続いているようなら、どうぞ早めにご相談ください。


この記事の著者

廣野 大介

こうの整形外科・漢方クリニック 院長

廣野 大介(こうの だいすけ)プロフィール詳細はこちら

日本整形外科学会 整形外科専門医

日本東洋医学会 専攻医