第1章:導入と問題提起|「何回打つ必要がありますか?」外来でよくいただく疑問

デスクワークによる頑固な肩こりや、長引く腰の重だるさ。「年のせい」「ただの疲れ」とあきらめていませんか?

最近耳にすることが増えた医療での「筋膜リリース」注射ですが、患者さんからは「1回で治るもの?」「何回くらい打つ必要がありますか?」という質問を多くいただきます。

結論からお伝えすると、「回数には個人差があり、1回で劇的に楽になる方もいれば、数回の治療とお体のケアを重ねて整えていく方もいる」というのが医学的な考え方です。

なぜ回数に個人差が出るのか、そしてなぜ注射による筋膜リリースだけで終わらせてはいけないのか、お体の仕組みやケアの考え方から詳しく見ていきましょう。

第2章:医学的なメカニズム|筋膜の“癒着”とエコー下筋膜リリースの仕組み

「筋膜」とは、筋肉を包み込んでいる薄い膜状の組織です。全身を立体的に包み、筋肉同士のスムーズな動き(滑走性)を保つ潤滑油のような役割を担っています。

しかし、長時間のデスクワークや姿勢の崩れ、運動不足などが続くと、筋膜と筋肉が貼り付いて硬くなる「癒着(ゆちゃく)」が起こります。これが、慢性的なコリやしびれ、痛みの大きな原因です。

当クリニックで行う医療での筋膜リリースは、「エコー下筋膜リリース(超音波ガイド下筋膜リリース)」と呼ばれます。

  • 超音波(エコー)で確認:痛みの原因となっている深部の筋膜や神経の癒着部位をリアルタイムで特定します。
  • 生理食塩水などの注入:安全に画面で確認しながら液剤を注入し、固まった筋膜の間を優しく押し広げて滑りを改善します。

医師がエコーで直接確認しながら深部の癒着に届かせるため、即効性と精度の高い治療が可能です。

第3章:さまざまな筋膜ケアとアプローチの違い|症状に合わせて適した方法を選ぶ大切さ

現在、一般的に「筋膜リリース」と呼ばれているものには、医療機関での注射以外にもさまざまな方法があります。

  • ご自宅で行うストレッチ:日常的な予防や軽度のコリを和らげるのに適しています。
  • 理学療法士などの手技によるアプローチ:圧やストレッチを用いて表面の緊張をじっくり緩めます。
  • 専用の器具(フォームローラー等)を使ったセルフケア:運動前後のお手入れや全体の血流促進に効果的です。

これらは「どれが一番優れている」というわけではありません。 表層の筋肉をほぐすセルフケアや手技が適している場面もあれば、深部の頑固な癒着にピンポイントで届かせるエコー下筋膜リリースが必要な場面もあります。ご自身のお体の状態や痛みの強さに合わせて、適した方法を正しく選ぶことが何よりも大切です。

第4章:放置するリスクと「注射だけでは終わらない理由」|注射・リハビリ・漢方で整える根本アプローチ

エコー下筋膜リリースを受けると、その場で「あ、肩が軽くなった!」「腰が伸ばせる!」と効果を実感される方が多くいらっしゃいます。

しかし、ここで注意していただきたいのが、「注射で痛みが取れた=根本原因が治った」わけではないということです。

痛みの背景には、長時間の前かがみ姿勢や猫背、筋肉の偏った使い方、ストレスや冷えによる血流障害など、日常の習慣が潜んでいます。これらを放置したままだと、一時的に癒着を解いても再び同じ場所に負担がかかり、痛みが戻ってしまうという悪循環に陥ります。

当クリニックでは一時的な痛みの緩和にとどまらず、「痛みを繰り返さないお体づくり」をゴールに掲げています。

1. 医療処置:エコー下筋膜リリース

痛みが強く日常生活に支障が出ている場合、まずはエコー下筋膜リリースで速やかに痛みのブロック・緊張の緩和を行います。お体の状態に合わせて、1〜2週間おきに数回行うケースもあります。

2. 運動療法:理学療法士による専門リハビリ

痛みが和らいだタイミングで、理学療法士が姿勢や動作のクセを評価し、適切なストレッチや筋力強化を個別指導します。手技や運動療法で身体の使い方そのものを変え、筋膜の再癒着を防ぎます。

3. 体質改善:保険適用の漢方薬(西洋医学+東洋医学)

「冷えやすい」「緊張が抜けず眠りが浅い」「血流が滞りがち」といった体質的な問題がある方には、体調に合わせた漢方薬(加味逍遥散や当帰芍薬散など)を保険適用にて処方します。内側から血行を促し、筋肉がコリにくい体質へと整えていきます。

第5章:まとめ|「痛みを繰り返さない」ために一緒に治していきましょう

筋膜リリースは、「何回打てば絶対治る」という決まった回数があるわけではありません。

セルフケアやストレッチで日頃から整えつつ、つらい痛みの段階ではエコー下筋膜リリースを賢く活用し、リハビリや漢方を組み合わせながら段階的にお体を整えていくことが根本改善への近道です。

「自分の症状にはどんなケアが合うのかな?」「何回くらい通えばいいんだろう?」と不安に思われた方は、どうぞ我慢せず気軽にご相談ください。


この記事の著者

廣野 大介

こうの整形外科・漢方クリニック 院長

廣野 大介(こうの だいすけ)プロフィール詳細はこちら

日本整形外科学会 整形外科専門医

日本東洋医学会 専攻医