第1章:寒くなると痛みを感じやすくなる理由

寒い季節になると、「いつもより痛みが強い」「動かすとギシギシする」と感じる人が増えます。それは、単なる気のせいではありません。

人の体は寒さにさらされると、体温を逃がさないように血管を収縮させます。すると、関節や筋肉への血流が一時的に低下して血液が運ぶ酸素や栄養が届きにくくなり、筋肉がこわばりやすくなるのです。

結果として、関節を動かしたときに痛みを感じやすくなったり、古傷や炎症の残った部位が“うずく”ような違和感を出すことがあります。

第2章:気圧・血流・筋肉──関節痛を引き起こす3つの要因

寒さや天候の変化による関節痛は、主に次の3つの要素が関係しています。

要因 体の反応 症状として現れやすいこと
① 気圧の変化 自律神経の乱れ・血管収縮 頭痛・関節の重だるさ・古傷の違和感
② 血流の低下 筋肉がこわばる・関節滑膜の機能が悪化 冷え・こり・動かし始めの痛み
③ 温度差ストレス 筋膜・腱が硬くなり、動作がぎこちなくなる 朝のこわばり・ぎっくり腰・筋肉痛様の症状

この3つが重なると、関節の中や周囲の組織が“動きにくい状態”になります。特に、長年痛めたことのある部位や加齢によって変形のある関節は、気温や気圧の影響を受けやすい傾向にあります。

第3章:実際に多い“冬の痛み”とその特徴

整形外科では、寒くなると以下のような症状を訴える患者さんが一気に増えます。

  • 膝の痛み:階段の上り下り、正座、立ち上がりで痛む
  • 肩のこり・首のこわばり:冷えによる筋緊張、血流低下
  • 腰痛:筋肉の硬直、ぎっくり腰の増加
  • 手のこわばり:朝、指が動かしにくい(手指の関節炎・変形性関節症)
  • 古傷のうずき:骨折や手術部位など、過去の損傷部が再び違和感を出す

特に「動かし始めに痛い」「温めると楽になる」タイプは、血流や筋緊張が関係していることが多いです。つまり、炎症ではなく“冷えによるこわばり”が主な原因のケースもあります。

第4章:自分でできる冷え・痛み対策

関節痛を軽くするには、「温める・動かす・冷やさない」が基本です。

温めて血流を促す

入浴や温湿布、カイロなどで温めることで、筋肉の緊張を緩めて血流を改善します。シャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのがポイントです。

適度に動かす

寒いからとじっとしていると、関節はどんどん硬くなります。朝起きたら軽くストレッチをする、通勤時に少し歩幅を広げるなど、“小さく動かし続ける”ことが痛み予防につながります。

冷えを防ぐ服装

首・手首・足首を冷やさないように意識してみてください。これらの“首”が温まると、全身の血流が良くなり、筋肉のこわばりが和らぎます。

痛みが強いときは無理をしない

「温めても痛い」「動かすとズキッとする」場合は、炎症が残っている可能性も。そのときは無理にストレッチせず、整形外科で状態を確認しましょう。

第5章:まとめ|“気のせい”ではなく“体の反応”です

寒くなると関節が痛くなるのは、気のせいではなく体の自然な反応です。血流や筋肉の緊張、気圧の変化が関係して、痛みを感じやすくなる──それだけ、私たちの体は環境に敏感に反応しているということです。

とはいえ、冷えによる痛みを我慢して放置してしまうと、筋肉が硬くなって“ぎっくり腰”や“寝違え”につながることもあります。

ちょっとした違和感でも、早めに相談してもらうことで、「温めるべきか」「安静にすべきか」の判断がつき、回復も早くなります。

寒い季節こそ、体を守る意識を少しだけ高く。無理をせず、温かく動ける冬を過ごしましょう。


この記事の著者

廣野 大介

こうの整形外科・漢方クリニック 院長

廣野 大介(こうの だいすけ)プロフィール詳細はこちら

日本整形外科学会 整形外科専門医

日本東洋医学会 専攻医