第1章:痛みがなくなった=治った、ではない理由

交通事故や打撲・むちうちなどの外傷では、時間の経過とともに痛みが軽くなることがあります。その時、多くの方が「治った」と感じて通院をやめてしまいます。

でも実際のところ、痛みが取れる=治ったとは限りません。たとえば、筋肉や関節を支えるバランスがまだ回復していなかったり、炎症のあとに生じた筋のこわばり(拘縮)が残っていたりすることがあります。

痛みが取れたのは「症状の第一段階が落ち着いた」だけで、本来の動きや可動域を取り戻すには、もう少し時間が必要なことが多いです。

第2章:整形外科が考える“回復のゴール”とは

整形外科では、治療のゴールを「痛みが消えた状態」ではなく、“日常生活に支障なく動ける状態”に置いています。

つまり──

  • 曲げ伸ばしが自然にできる
  • 仕事や家事の動作に支障がない
  • 長時間同じ姿勢をとっても痛みが出ない

こうした「動きの回復」こそが、医師が考える“治った”の基準です。痛みが引いたあとにリハビリを続けるのは、再発を防ぐためではなく、**本当の回復を仕上げるため**なのです。

第3章:リハビリで取り戻す「動き」と「支える力」

リハビリというと、「電気治療」「温熱療法」といったイメージを持たれる方が多いかもしれません。でも、それはほんの一部。

実際の整形外科リハビリでは、以下のようなアプローチを組み合わせていきます。

  • 関節の可動域訓練:硬くなった関節や筋肉を徐々に動かす
  • 姿勢・バランス訓練:事故後に崩れた体の使い方を整える
  • 筋力トレーニング:痛みで落ちた筋肉を再び使えるようにする
  • 日常動作の再学習:体に“正しい動かし方”を思い出させる

むちうちなどの頚椎捻挫では、首や肩の筋肉が固まって血流が悪くなりやすいので、動かすリハビリを取り入れることで神経や血流の回復を促すことができます。

第4章:途中でやめるとどうなる?再発・慢性化のリスク

「痛みがなくなったからもういいか」と自己判断で通院をやめると、数週間〜数か月後に痛みの再発や可動域の制限が起こることがあります。これは、治りきる前に運動を開始することで、筋肉や靭帯に再び負担がかかってしまうためです。

また、リハビリ途中でやめてしまうと、関節が硬くなる(拘縮)リスクも。一度固まってしまうと、再び動きを取り戻すには時間がかかります。

リハビリは「治療の後半戦」。早く良くなりたいと思う気持ちは大切ですが、“あと少し”の期間が、実は一番大事な仕上げの時間でもあります。

第5章:まとめ|“動ける体”を取り戻すのが本当の治療

整形外科での治療は、「痛みを取ること」だけが目的ではありません。痛みが取れたあとに“どれだけ自然に動けるか”、そこまでを含めて治療です。

リハビリは、体を「元の生活に戻すための再教育」。そこまで続けることで、再発を防ぎ、将来的な不調を減らすことができます。

私たち整形外科医が考える“回復のゴール”は、痛みがないことではなく、**「動ける体を取り戻すこと」**。「もう大丈夫かな」と思ったそのあとこそ、治療の大切な時間です。焦らず、一歩ずつ回復を仕上げていきましょう。



この記事の著者

廣野 大介

こうの整形外科・漢方クリニック 院長

廣野 大介(こうの だいすけ)プロフィール詳細はこちら

日本整形外科学会 整形外科専門医

日本東洋医学会 専攻医