第1章:なぜ“同じ場所ばかり”痛くなるのか

スポーツで起こるケガには、大きく分けて2種類あります。

  • 瞬間的な衝撃によるケガ(例:捻挫・骨折など)
  • 小さな負担の積み重ねによる慢性障害

この後者がいわゆる“使い過ぎ症候群”です。ランニングなら膝や足首、野球やテニスなら肩・肘、ゴルフや筋トレでは腰や手首──と、競技によって痛みやすい部位が決まっています。

原因は単純ではありません。

  • 体の使い方の偏り
  • フォームのわずかな崩れ
  • 筋肉の疲労蓄積
  • 柔軟性やバランスの低下

こうした要素が積み重なり、筋肉や腱に微細な炎症(マイクロトラウマ)を起こすことで、「いつも同じところが痛い」という状態になるんです。

第2章:“オーバーユース症候群”という考え方

“オーバーユース(overuse)”とは文字通り「使いすぎ」。筋肉や関節が回復する前に繰り返し負荷をかけることで、炎症が治らず慢性化してしまう状態を指します。

よくある例としては、

  • ランナー膝(腸脛靭帯炎)
  • テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
  • 野球肩・野球肘
  • アキレス腱炎

などが代表的です。これらは、最初は「ちょっと痛いけど動ける」程度。ところが、我慢して続けるうちに炎症が進み、痛みが“消えないクセ”として残ってしまうことがあります。

第3章:部位別にみる代表的なスポーツ慢性痛

これらに共通するのは、急に起こるケガではないということ。 “積み重ね”で起きるため、気づいたときには組織が疲弊しているケースが多いんです。

部位 主な症状 原因の一例
膝(ランナー膝) 膝の外側がズキズキ痛む 走行フォームの崩れ、筋バランスの乱れ
肩(野球肩・水泳肩) 投げる・上げる動作で痛む 腱板の炎症、姿勢不良、肩甲骨の可動制限
肘(テニス肘) 物を持つ・握ると痛む 前腕筋の使いすぎ、肘周囲の微小損傷
アキレス腱 朝一番や階段で痛む 硬いふくらはぎ筋、靴の影響、ランニング量の増加
腰(ゴルファー腰) 回旋・前屈で痛む 体幹筋の弱化, スイング時の負担集中

第4章:我慢が招く悪循環と、整形外科での治療法

「少し痛いけど動けるから大丈夫」──実はこの状態が、一番危険です。痛みを感じたまま練習を続けると、体が痛みを避けるような動きを覚え、フォームが崩れます。結果的に、別の部位にも負担が広がる悪循環に陥ることも。

整形外科での治療では、

  • 炎症を抑える(固定による安静・注射・物理療法)
  • 筋膜や腱の滑走性を改善(ストレッチ・リリース)
  • 姿勢やフォームを整える運動療法
  • 必要に応じてエコーやMRIによる詳細検査

を組み合わせ、「原因」と「結果」の両方にアプローチします。リハビリでは「再発しにくい体の使い方」を身につけることも重視します。単に痛みを消すだけでなく、体の動かし方を再教育することが、長くスポーツを続けるための鍵です。

第5章:まとめ|“痛みを無視しない”ことが上達への近道

スポーツをしていると、痛みを「頑張りの証」と思ってしまうことがあります。でも、本当に体を強くしたいなら、痛みを無視しないことが一番の近道です。

痛みは、体からの“危険信号”。それを早めにキャッチして整えることで、フォームもパフォーマンスも安定します。

私たち整形外科医は、スポーツを「やめさせるため」ではなく、“続けられるように整える”ために治療しています。「いつも同じ場所が痛む」「我慢しても良くならない」──そんなときは、一度しっかり体をチェックしてみてください。放置して頑張り続けるよりも、今少し休んで整えるほうが、ずっと長く動ける体になります。


この記事の著者

廣野 大介

こうの整形外科・漢方クリニック 院長

廣野 大介(こうの だいすけ)プロフィール詳細はこちら

日本整形外科学会 整形外科専門医

日本東洋医学会 専攻医